「アサーション」という言葉をご存知だろうか。
近年、コミュニケーションについて語る際よく耳にするようになったが、詳細については知らない人も多いかもしれない。
私は「人間関係を良好にするために必要なスキル」程度の知識しかなく、興味はあったが勉強できていなかった。
改めて学びたいと思い新書、平木典子さん著の『アサーション入門』を手に取った。体系だっていて非常にわかりやすく、入門書としても基礎的な思考をトレーニングする本としても大変良かった。
アサーションとは、「自分も他者も大切にする思想」
この本では、アサーションというものを一貫して「自分も他者も大切にする思想」と説明している。
英和辞書をひいて出てくる、“assertion”の「主張」「断言」「断定」「言い張ること」といった直訳とは、異なる概念として捉えてもらいたいとも書かれている。じゃあ一体どういった意味なのか。
この本での説明を端的に書くと、「非主張的でもなく攻撃的でもなくちょうどいいバランスで、自分のことをまず考えるが他者のことにも配慮する自己表現」となるだろう。
つまり、自己表現は①非主張的②攻撃的③アサーションの三つに分類されることとなる。(アサーションの考えを最初に紹介したアメリカの心理学者ウォルピィの説)
そしてこの本でまず印象的だったのは、非主張的であることも攻撃的であることも、等しくきっちりと厳しい批評をしている。なんなら、非主張的な人が不満を募らせて攻撃的になっていることも多く、二つの自己表現は行ったり来たりする場合が多いのだという。
私は、直感的に攻撃的な自己表現よりは、非主張的な方がいくらかマシだろうとどこかで感じていた。自分自身が、この非主張的な自己表現傾向があることを理解していたし、その自己表現を取る理由が諍いを避けるため、いわゆる「平和主義」的な性質によることも理解していたからだ。
しかし、実際に厳しい評価にさらされて気づいたのは、確かに言われた通り、主張を我慢し続けた末に攻撃的になったことが確かにあったのだ。それは結局のところ、話し合いを面倒に思い避けただけで平和主義でもなんでもなく、諍いを避けたつもりが先延ばしにしているにすぎなかった。これをこの本の中では「誤解の上に人間関係が作られていく」状態だとうまく表現されている。
何かについて私が「我慢していると思っていること」や「不満があること」や「譲ってあげていると思っていること」を相手は知らず、私が“そういう”人間だと認識できずに付き合ってくれている。要するに、偽りのパーソナリティによる人間関係であり、それは本来の私が居心地の良い場所づくりではない。
これは経験からいっても両者を不幸にしたし、言いたいことを我慢することがいいことなわけがないのだ。相手は急に怒り始めた人間を、理解することは決してできない。
何かを主張する権利が自分にはあるし、それを否定される権利もある。話し合いが思い通りにならないことも含めて受け入れ、それでもお互いの意見を出し合って交換することには意味がある。
今日どこか行きたい場所があって誰かを誘うとき、相手が断ることもあると理解して誘うのはアサーティブだし、断る側も行けないことを伝えた上で、今日でなくてはダメか尋ねるのもアサーティブだ。
この本の後半では、以下のように書かれている。
平木典子『アサーション入門』
アサーションとは、誰からも好かれるための方法ではなく、自分を知り、かつ自分を最大限に発揮するための方法です。自分をまず自分がほめ、好きになり、その自分を好きになってくれる人に出会うことが大切だと考えることが、アサーティブな考え方の基本なのです。
相手の顔色を気にして、誘いを断りづらいと思うことはないのだ。必要なのはきっちりと自分の意見を述べた上で、相手を気遣うことだった。
他にも、具体的に自分を縛ってしまう考え方や、アサーティブなコミュニケーションで意識すべき言葉などについても触れられており、大変実践的で勉強になった。
思ったまま、ありのままで生きるというのは、頭では分かっていても行動に移すのはなかなか難しいし最初は勇気がいる。しかし、嘘のコミュニケーションや人間関係を続けていけば今よりもっと難しい状況にもなりかねない。
少しずつ主張をすることを心がければ、自分が何に対してどのように考えているか、考えや趣向が次第にはっきりするはずだ。自分への理解が深まれば、自分自身を発揮するチャンスにも恵まれるとこの本には書かれている。本当にその通りだと思う。
これはプライベートな人間関係以外でも、仕事やさまざまな場面での可能性にも繋がる。
かつての私がそうであったように、長らく周囲に合わせるように空気を読んで生きてきた人は、本当に自分がどうしたいのかがわからなくなることもあるだろう。
私は最近、こうした自分の問題に一つ一つ向き合っている最中だ。
自分に嘘をつかず、周囲にも嘘をつかずにすむことが増えれば、きっともっともっと生きやすくなると信じている。その際、アサーションはきっと私の助けになってくれる。
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