【なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか】生産性も求めず、効率化もはからない、ただやりたいこと

読書レビュー

今日は月曜日だ。

憂鬱に一週間を始めた人も多いだろう。

私は週末が楽しかったため、久しぶりに前向きな気持ちで満員電車に乗れた。しかし降りたホームで急いでるサラリーマンに思い切り後ろからぶつかられ、挙句、ふり返って舌打ちされて睨みつけられた。気分は最悪である。月曜日なんて嫌いだ。

とはいえ、月曜日にも楽しみはある。好きなYoutubeチャンネルの更新日だからだ。

みんなの積読を増やしてやろうと試みる『積読チャンネル』は、月曜日と金曜日に更新される。

以前も触れたことがある本屋さん、古本から新刊まで購入できるVALUE BOOKSの、社員の方がパーソナリティをしている。書店員で選書家なのだから、面白い本をたくさん知っているに決まっている。そう思い、最近見始めたが大当たりだった。

ここで紹介される本がことごとく刺さるものだから、私の積読は着実に増えている。思うつぼである。

このチャンネルで初めて見た回で紹介されていた本など、みた瞬間に購入していた。脊髄反射だ。

それが、ジョナサン・マレシック著『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』

仕事に対して燃え尽き(=バーンアウト)てしまう人たちが、なぜ燃え尽きその理由は一体なんなのかについて書かれている。

実際に購入した本は、積読せずにすぐに読んだ。とても面白かったのだが、なにぶん紹介がうますぎるため、紹介動画を見た方がもっと理解が深まるし面白いと思ってしまった。

本の紹介動画は、淡々と要約されていることが多いが、このチャンネルは二人のパーソナリティが思ったことや自分なりに考えたこと、予備知識や関係ありそうな別の本の話まで、色々と話を広げながらその本の本質について(たまに全く本質じゃないことまで)話してくれる。

この本に興味を持った方も、ぜひ紹介動画を見てみてほしい。ちなみに二本立てだ。(後編はこちら

いかに私たちが「仕事」というものを過度に評価し、人生を乗っ取らせているのかが良くわかる話になっている。

仕事に対する「期待」と「現実」のギャップで私たちは燃えるきる

この本では、著者自身が仕事で燃え尽き退職した経験を持つことから、「なぜ働く気力を失い、人生の敗北者と感じてしまうのか知りたい」という切実な思いで書かれている。

そしてこの本では一貫して、「仕事は私たちに尊厳を与えるものでもなければ、私たちの人格を形作るものでも、生きる目的を与えるものでもない」と主張している。

ただ報酬を受け取る手段に過ぎなかったのに、私たちはあたかも仕事のためにいき、仕事により成長し、仕事をしていないと立派な大人ではないかのように信じ込まされているというのだ。

確かにその通りだ。私は一時期働けなかった時期があるが、まるで存在意義を失い、生産性のなさで押し潰されそうな気がした。

生産性のない自分は、「生きてる意味がない」とさえ思ったのだ。働かずに食い、糞便しか生産できないのだと自分を皮肉った。

しかし、そんなのはおかしい。冷静になれば、生産性がなくて生きられないことはあっても、生きている意味がないはずはないのだ。この本を読むと、こうした考えがどれほど根深く我々に刷り込まれた幻想であるかがわかる。そしてそれが、私たちにバーンアウトをもたらす原因となっていることにも気付かされるのだ。

生産性がないといけない、仕事ができなければならない、そういった呪いにかかっている私のような人は多いだろう。

そうした人たちのために、この本の中で私が最も好きな言葉をいかに載せておく。

「私だって、愛に値するはず」

「あなたは、あなたの生産性よりずっと価値がある」

まずはこの言葉を、自分や周囲の人にかけてあげるべきだ。

仕事が好きで得意だという人と、釣りや読書や裁縫が得意だという人に、本来向けられるべき反応は同じでもいい。

仕事ができないことと運動や料理が苦手なことは、同じであっていいのだ。

私たちは、仕事に過度に期待し夢を持ち、それらと現実にギャップがあることを知り、燃え尽きてしまう。そうならないためには、どうすればいいのだろうか。

バーンアウトの症状と陥りやすい環境

バーンアウトした人は、次のような症状が出るという。

  • 情緒的満耗感
  • 脱人格化
  • 個人的達成感の低下

これらは三大症状として本書で紹介されている。
そして、対処法はそのときの自身の状況や心理状態によって四つに分かれると書かれているが、「対処法は自分で選べるものではない」と強調されている。

皆それぞれの方法で、それぞれの折れ方をするのだ。

「バーンアウトするか否かを選べないのと同様、どのようにバーンアウトするかも選ぶことはできないのだ。」

私たちは、選択肢がないところまで追い詰められないために、今一度この症状が出ていないか確認する必要があると思う。

仕事上の現実と理想が乖離し始めたときに、私たちが取る反応というのは主に以下のようになるらしい。

  1. 無理をしすぎる…強い意思の力や拒絶感で自分の理想にしがみつく
  2. シニカルになる、脱人格化…理想を打ち捨て、妥協した現実を受け入れる
  3. 無力で価値がないと感じる、失望…現実を見ない、あるいは現実に抗いながら、理想を維持する
  4. 疲労困憊、バーンアウト…理想と現実の両方を手放す

私は残念ながら、大なり小なり、全てに覚えがあった。

過去も今も、違う形でバーンアウトしかけ、それでも確かな解決策はなく、なんとかその場しのぎの対処法により保っているのだと感じている。

そしてそれは多分、現代社会を生きる多くの人がそうだ。

私たちは、仕事に人生も感情も人格も何もかもを捧げている現実をまずは認め、仕事による価値観を薄めなければならない

この本の中で、とある修道院の話が出てくる。祈りの時間を確保するために働かない、もしくは働くことを制限する選択肢を取るというのだ。「祈り」は効率化されない。してはいけない。それでは意味がないのだ。

私は聖職者のことはよくわからないが、祈りの時間は祈ることそのものに意味があるべきだと思う。祈ることで救われるとか、誰かが幸せになるとか、そういった意味あいもないとは言わないが、そうした目的を超越したところに、祈る行為そのものに癒され、穏やかになり、幸せが宿るのではないかと思う。

こうした「行為そのもの」に価値を感じられる時間こそが、私たちには必要なのだとこの本を読んで強く感じた。

家族や友人と馬鹿を言って笑い合う時間、流れる雲を清々しい気持ちで眺める時間、愛する人と抱き合う時間、ペットを慈しみ撫でる時間、素晴らしい小説を読む時間——これらを、私は効率化しようとは思わない。ただただ「今」が続くことを願うことは、幸福だからだ。

私たちが限りある人生を過ごす上で、しなければならないことの第一位は絶対に仕事ではない。

この本を読んでいるとそれがはっきりとわかり、仕事に求めるものが明確になる。

ちなみに、本書の中ではバーンアウトしやすい仕事環境についても触れられている。

具体的には、労働者が「人と仕事のミスマッチ」をもっとも多く経験する分野が6つ挙げられているのだ。

  • 作業負荷
  • 裁量権
  • 報酬
  • コミュニティ
  • 公正さ
  • 価値観

この6分野でミスマッチがあると、労働者がバーンアウトに陥る可能性は高くなるようだ。

私たちがバーンアウトを防ぐには、働き過ぎないというだけでは足りないということを肝に銘じておかなければなるまい。

仕事より大切なもの

この本には絶対的な解決策は載っていない。

ただ、明日から少しだけ趣味の時間が増えるかもしれない。家族との時間がより大切に感じるかもしれない。残業が少し減るかもしれない。

私たちの毎日はきっと明日も仕事共に進んでいく。少しだけ違う心持ちで。

この本は私たちの働き方をすぐに変えてはくれないが、解決に向かうための気づきを与えてくれる。気づけば少しだけ、行動が変わる。

修道院での祈りのように、自分にとって効率化すべきではないと感じる時間が生活の中で増えるかもしれない。

ほんの少し行動が変われば、私たちの未来は大きく変わりえる。

これははそういうふうに思わせてくれる本だった。

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